弘法水目次
弘法水とは「こうぼうみず」と読み、空海(弘法大師)が日本各地を巡礼した際、杖を突きたてたところから湧き出たという湧水・霊水のことを指します。弘法水だけでなく、「弘法清水」「弘法井戸」「大師の水」「清水大師」など、さまざまな名称で呼ばれています。
各地に点在する弘法水はいずれも独特な泉質が特徴です。潮の満ち引きによって湧出量が変化するもの、白濁水のもの、海のなかにあるにも関わらず真水が湧き出るもの、逆に山中にあるにも関わらず塩水が湧き出るものなど、バリエーションも豊富で、その多くは持病や健康増進に効果のある薬水として重宝されています。
弘法大師が巡礼を行っていた平安時代はまだ医療技術や衛生環境が十分でなかったことから、このような薬水は「伝説の霊水」として、信仰の対象とされていました。現代でも、弘法水の湧き出る場所は神聖な場所として、祠が置かれ、奉られている場所があります。
弘法水は日本全国に約1,400ヶ所あると言われており、各地で健康や美容に効果のある水として古くから親しまれています。北は青森から南は鹿児島県まで、全国のあらゆる場所で見られますが、なかでも愛媛県西条市の弘法水は有名です。
愛媛県西条市の弘法水は、海底の水源から清水を汲み上げています。「海のなかにあるにも関わらず真水が湧き出る」タイプの弘法水です。毎日地元の住民が手を清めたり水を汲んだりして日常的に活用しており、その周辺の住民は長寿が多いという言い伝えもあるそうです。
西条市の弘法水は、弘法大師に関わるエピソードが伝説として残っています。弘法大師が四国巡礼中に休憩をしていたところ、老婆から水を分け与えてもらい喉の渇きを潤すことができたそうです。老婆から与えてもらった水は遠くから運んできたものだと知った弘法大師は、お礼にと杖の先で地面を2、3回叩きました。すると、この清水が湧き出てきた、というエピソードです。
平安時代からはるか先の現代でも、いまだにこの伝説は語りつがれ、伝説の水は枯れることなく、地元住民に愛され続けているのですから、この場所は歴史的、民俗学的に貴重な場所だと言えるでしょう。
なお、弘法水は西条市の湧水のなかで、最も海側から湧き出るスポットですが、西条市はここの他にも「うちぬき」という鉄棒を地面に打ち込んだ自噴井があらゆる場所で見られます。このやり方自体は江戸時代に考案されたものであると言われています。
しかし、「杖で地面を叩いて水が湧出した」弘法大師の伝説がもし本当であるならば、弘法大師はうちぬきのルーツである方法を、全国で実施して周っていたと言えるでしょう。
弘法水同等の「名水」であるうちぬきは、環境省が認定する「名水百選」に選ばれています。西条市は「水の都」として弘法水やうちぬきを全面的に観光資産として打ち出しているようです。
うちぬきが見られる主な場所は、総合文化会館、アクアトピア水系(デッキ、散歩道)、陣屋跡のお堀、うちぬき広場、街路古川玉津橋線、そして「弘法水」です。このほかにも市内には2,000ヶ所以上ものうちぬきがあり、1日で9万㎥にも及ぶ水が自噴しています。
多くの住民や観光客に愛される弘法水およびうちぬきの水は、「名水」であるだけでなく「おいしい水」であることが特徴です。名水とおいしい水はイコールではなく、「名水であり、かつ安全に飲めて、のど越しが爽やかな水」は限られているのです。そんな狭い条件をクリアしている弘法水は、「全国利き水大会」において2年連続全国1位のおいしい水として選出されています。
カルシウムやマグネシウムが少なく、まろやかな甘みがありつつ、ナトリウムの豊富さによって重厚感のある味となるのだそうです。「伝説がある」「健康増進効果がある」だけではなく、そもそも「おいしい」ということが、古来よりこれだけ長きにわたり、人々に愛されてきた秘訣なのかもしれませんね。
弘法水と十三街道
「十三街道」とは、大阪府八尾市神立から「十三峠」を超えて、奈良県生駒郡斑鳩町の竜田までの街道のことを指します。またの名を「俊徳街道」と呼び、ハイキング・ウォーキングコースとして親しまれている街道です。
十三街道は十三峠にある「生駒十三峠の十三塚」に由来します。十三塚とは、全国各地にみられる民間信仰の構造物であり、その名の通り13基の塚で形成されているものです。
一方、別名である俊徳街道にも由来があります。俊徳丸という伝承上の人物の恋愛ストーリーであり、能や浄瑠璃、歌舞伎にもなっている有名な「高安長者伝説」によるものです。この話のなかで河内国の高安に住む俊徳丸は、舞楽の修行で高安から四天王寺へと通っていたとされており、そのルートこそが「俊徳街道」とされています。
古くから能や浄瑠璃になるほど、知名度の高い十三街道および俊徳街道ですが、その歴史は奈良時代まで遡ります。古くは四天王寺から平城京までを結ぶ道のりとして整備されていたようです。
平安時代には、貴族の歌人であった在原業平との関わりが深く、「業平の高安通い」というエピソードは有名です。業平は十三峠の先にある枚岡神社へと参拝に行く際に、その道中の茶屋の娘に恋をしました。伝承には八百夜も通いつめたと言われており、通うルートであった天理市から十三峠を越えて八尾市に至る道は、「業平道」とも言われています。
このような伝承の多い十三街道ですが、弘法大師が杖を叩いて湧水させたと言われる「弘法水」とも密接な関わりがあります。弘法水の伝説が残る場所は全国に1,400ヶ所以上あると言われていますが、十三街道にある「水呑地蔵尊」もその一つです。
弘法大師は巡礼で十三峠を越える際、同じく十三峠を越えていく旅人のために祈念して、峠まで八分目ぐらいの場所に水を湧出させました。それをきっかけに水神信仰が生まれ、現代でも水呑地蔵院という寺院のなかに、水呑地蔵尊が祀られています。地元住民からは「みずのみさん」という愛称で親しまれているようです。
水呑地蔵院の境内には「弘法の霊水」を汲める水汲み場が用意されており、ここの霊水は脚気に効くと、地元住民や観光客が毎日のように汲みに訪れています。
そんな弘法大師とのゆかりも深い十三街道ですが、水呑地蔵院を含む寺院や神社をお参りしながら健康的なプチ登山ができるルートとして、ハイキングコースが整備されています。
近隣駅から水呑地蔵院を目指すルートであれば、1時間~1時間半ほどの所要時間で、自然のなかでの軽い運動を楽しみ、歴史ある水呑地蔵院で霊水を味わい、峠から見渡せる大阪の眺望を満喫することができるでしょう。
十三峠および水呑地蔵院のアクセスは、最寄り駅である近鉄電車信貴線「服部川駅」からとなります。登山道のスタートとなる「神立茶屋辻」までは徒歩30分ほどかかります。神立茶屋辻は前述の在原業平が茶屋の娘に恋をした伝説ゆかりの場所ですね。
神立茶屋辻まで来たら、水呑地蔵院までは直線距離で500~600m程度です。「そんなに大した距離ではない」と思うかもしれませんが、ここからは急勾配かつ山道なので注意しましょう。ただ、ルートは分かれ道も少なく分かりやすいので、登山やハイキングの初心者でも安心です。休憩を挟んでも、大人の脚であれば30分ほどで水呑地蔵院に到着します。
このあたりにはいくつもの峠があり、十三峠以外にも多数の方法で「峠越え」のハイキングが楽しめるようですが、初心者であればおすすめは圧倒的に十三峠での峠越えルートでしょう。
古来より多くの旅人に利用されているこの道はいまでも整備を怠らず、ところどころに竹箒が置かれていたり、道を掃いている人を見かけたりすることも多いようです。気軽に行けるハイキングで、弘法大師や在原業平の伝説に思いを馳せ、弘法水を飲んで一息ついてみませんか?
弘法水付近の最寄り駅
愛媛県西条市にある「弘法水」の最寄り駅は、「伊予西条市駅」です。駅から弘法水までは歩いて30分ほどであり、ほぼ直線で海のほうに向かって歩けば到着となります。弘法水は西条市の一大観光地であるため、駅から弘法水までの道のりに看板や案内があるかもしれません。複雑な道ではありませんが、迷いそうなときは周りの案内やマップアプリを見ながら歩きましょう。
JR四国予讃線の伊予西条市駅は、西条市の中心街にあり、毎日平均1,200人以上が乗り降りするメインターミナルです。特急も始終着する駅であり、始発となるのは早朝に駅を発つ岡山行き「しおかぜ」と高松行き「いしづち」です。一方で、終着となるのは深夜帯に到着する高松発の特急「ミッドナイトエクスプレス高松」です。どちらも早朝または深夜の電車ではありますが、岡山や高松からは特急1本で行きやすい駅であることが伺えます。
なお伊予西条市駅は、弘法水はもちろんのこと、西条市の湧水スポット全般を指す「うちぬき」が有名なエリアであるため、駅の内外にもうちぬきの文化が随所に見受けられます。まず駅構内では、2,3番線ホームにうちぬきがありました。
バリアフリー化を機に撤去されてしまったようですが、駅のなかにまであるとは、うちぬきを観光文化、資産として発信する西条市の意気込みが伝わりますね。駅のなかにはなくなってしまったうちぬきですが、駅前広場には現在も設置されています。
駅に降り立ったときから、「弘法水とうちぬきで栄えた水の都」を感じられる伊予西条市駅、ぜひ立ち寄ってみてくださいね。
弘法水アクセス方法
愛媛県西条市の「弘法水」へのアクセスは、電車・バス・車などの方法があります。まず、西条市へはそもそもどうやって向かえばいいのでしょうか。西条市までの電車でのアクセスは、各方面からまず、岡山または高松に向かいましょう。
岡山や高松からは、西条市のメインターミナル「伊予西条市駅」までの特急が出ていますので、特急に乗車すればそれぞれ1.5時間ほどで到着します。
西条市までの公共交通機関を使ったアクセスは、上記の電車でのルートが主流ではあるものの、東京・大阪・神戸からの直行高速バスが出ていたり、飛行機で最寄りの松山空港まで向かうルートがあったりと、様々な方法があります。自分の住んでいるエリアから一番行きやすい方法を選んでみてくださいね。
西条市へは車を使って向かうことも可能です。東京ICからは9時間程度で、最寄りの「いよ西条IC」に到着します。公共交通機関は使わずに、ドライブをしたいという方は、高速道路に乗って行ってみましょう。
西条市に入ったあと弘法水までは、JR伊予西条駅からであれば徒歩30分、松山自動車道いよ西条ICからであれば約8kmで到着します。目の前まで行けるような最寄り駅はないので注意が必要ですが、西条市の中心地まで入ってしまえば比較的好アクセスですぐに到着します。
全国各地にある弘法水のなかには、山や森のなかにあるような行きにくい場所もありますので、街中からほど近い海辺にある西条市の弘法水は、初心者でも行きやすい場所かもしれませんね。